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この小説フィクションです。
登場人物、団体等のほとんどが架空であり、内容もつくりのものです。
2週間の停職処分、普通に考えれば重い処分。
退職まで付いて回るほどの処分ではあるが、今の僕には、そんなことどうでもいいことだった。
何も考えられない、あの時と同じ。
自然と祐子さんの墓前にいた。
「僕は何をやっても駄目だよ、そばにいきたい。。。」
潮の香りさえも、鬱陶しく感じられる。
どのくらいいただろう、祐子さんの父親が横にいることすら気がつかなかった。
「来てたのかい?家に顔出してくれればよかったのに」
ぼくは何も言わずうなずいた、いささか無礼であると承知の上だったが、言葉を発する気力すらない。
「さ、家に行ってお茶でも飲もう」
僕は黙ったままついていった。
家に着くと父と二人、父がお茶をいれてくれた。
「停職処分を受けました」
本来ならばこんなこと言うべきではない、これ以上心配をかけるつもりなのか。
「交通事故現場で救助活動中、頭の中が真っ白に・・・」
父はゆっくりと口を開く。
「君には見せないつもりだった、が見てもらったほうがいいようだ」
一本のビデオテープを奥の部屋から持ってきた。
「家族旅行に行く途中、偶然事故現場を見つけた方が、消防に通報して、その後もずっとビデオで記録してくれたものだよ」
そう言いながらゆっくりとビデオテープをデッキに入れた。
反対車線の車の窓から事故現場が写っている。
画面は揺れ、ガタガタと雑音が混じっている。
「おい、早く119!」という男性の声。
「すみません、交通事故です、早く来て!」女性の叫びに近い声。
携帯電話で通報している男性の奥さんの声だろう。
「意識がほとんどない!頭から血が出てる、車のドアも開かないぞ!」
男性の叫び声を復唱するかのごとく、通報している女性の声が聞こえてくる。
車は前部が完全に潰れ前席に食い込んでいる。
ラジエターの蒸気らしき煙も見える。
男性は車の窓から「大丈夫か!しっかりしろ!じき消防がくるから」
と叫び続ける。
何故だろう、涙が出てきた。
下に出ている時間から見て、約8分後救急車、それからしばらくして救助工作車と消防車が到着した。
流れるような活動、熟練した救助隊員、救急隊の無駄のない救命処置。
これを見て思った、未熟なのは全て自分だった。
勝手に消防隊の活動が悪かったと疑ったり、通報が早ければと不運を恨んだり。
しかし、現実は違っていた。
確かに、救助隊員となったきっかけはこの事故である。
が、それはきっかけに過ぎず、未熟なのは自分自身の努力が足りない、精神力の弱さからくるものだったのだ。
初めて祐子さんの仏壇に向う。
その中の写真は、明るく微笑んだ祐子さんがそこにいた。