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いくいく Mura3

投稿の詳細: 13 自衛隊退職

13 自衛隊退職

この小説フィクションです。
登場人物、団体等のほとんどが架空であり、内容もつくりのものです。

[続き:]

 基地に連れ戻された僕は小隊長と話をした。
自分は、事故を認められない、祐子さん死を受け止められない。
自衛隊を退職して実家で少し考えたいと。
小隊長は「休暇や休職でも」と僕の今後について親身に考えてくれていた。
何度か説得されたものの、僕の意思は固かった。
固かったというよりも、「考えたくない」「逃げ出したい」一心であったのだろう。

退職辞令を受け取ってから、僕は祐子さんが住むはずだったアパートに向う。
間取りや部屋の写真などをやり取りしながら僕が賃貸契約をしたその部屋には、祐子さんの当座の衣類など、少ない荷物と冷たい空気だけが置かれていた。
その部屋で、ただ何もせず数日間を過ごしたのは、彼女の死を認めたくない気持ちからだったのだろう。

部屋を引き払って僕は実家に戻った。
どうしても彼女の実家に行くことはできない。
それは彼女の「死」を迎えに行くような感じがしたのだ。
僕の両親も以前と変わらず何事もなかったように接してくれる、それが救いであった。

しばらくして、彼女の父が尋ねてきた。
「自衛隊の隊長さんから話は聞いたよ、ちょっと外を歩かないか」
今でも一番辛いのは、この父親であろう。
その父親が、きっと僕の今後のことを思ってわざわざ来てくれたのだろうということが逆に辛く、現実に引き戻されるような感じがした。
竜ヶ池公園を歩く。
過去に祐子さんと歩いた道。
彼女の事故の状況を聞いた。

出発の日、嬉しそうに家族に「行って来ます」と言って家を出た。
きっと、あの微笑を浮かべていたのだろう。
一路直江津駅に向うため車を走らせる。
車は僕の叔母が直江津駅に引き取りに行き、売る手筈が整っていた。
山と海に挟まれた国道8号線、緩やかなカーブで山側のよう壁に激突した。
始発電車の時間に遅れそうになっていたためスピードを出し過ぎたようだ。
瀕死の状態で車に挟まれていた彼女は、救助隊により救助され病院に運ばれたが、その日の午後、夕日を待たずに他界したそうだ。

「これから君はどうするんだね」
僕は答えに困った、未だ何も考えられない状態にいる。
沈黙が続いた。
「祐子は死んだんだ」
頭の芯にツーンと痛みが走り、目からは涙が堰を切ったように流れ始めた。
彼女が逝ってから涙を流すのは初めてだった。
「祐子の死を無駄にせんでくれ、前を向いてくれ」
その言葉を残し、そのまま父は新潟に帰った。

やっと僕は「逃げ切れない現実」と向かい合うこととなり、彼女の墓へ向う。
そして墓前で手を合わせる。
心の中で彼女に話しかける。「君のお父さんに言われたよ、君の死を無駄にするなと」
「だから僕は救助隊員になる、そして君のような交通事故でなくなろうとする命を瀬戸際で食い止める」
それまで深く考えていたわけではない。
墓前で彼女に諭されるかのように決意した。

そのまま彼女の父親の元へ向い墓前での決意を告げる。
彼女の父親の目に涙が、ほぼ同時に僕も涙が止まらなくなっていた。

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