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いくいく Mura3

投稿の詳細: 12 救助隊員

12 救助隊員

この小説フィクションです。
登場人物、団体等のほとんどが架空であり、内容もつくりのものです。

[続き:]

 オレンジの救助服、着てみると結構目障りな色である。
救助隊に配属されてから早一ヶ月、救助出動指令は、一度もない状態。
そんな中いつもと変わらない当直の始まり。
空が曇っており、今にも雨が降り出しそうな天気。
何か胸騒ぎがした。

夜になると雨が本格的に降りはじめ、救急隊員が「交通事故出そうですね」という話をしているのが耳に入る。

「須国管内、交通救助、入電中」
放送が流れる、救助隊員は当然、救急隊や指揮隊と消防隊も車庫に走る。
交通事故で救助が必要な場合、消防隊も火災警戒で出動する。

車はガソリンの貯蔵タンクのようなもの、出火危険も高く、出火すれば車に取り残されている人や救助隊員も間違いなくただでは済まない、出火防止や万が一出火した場合の消火、そのための消防隊である。
指揮隊は、複数の隊が同じ現場で活動する場合、現場全体を掌握して各隊が有効な活動に専念できるよう統制をとるために出動する。情報収集や安全管理、その現場の最高責任を負う。

「救助指令、交通救助、須国指揮1、須国救助1、須国救急1、須国ポンプ1、指令終わり」
雨が降りしきる闇、赤い回転灯の閃光が幾重にもはしる。
サイレンが響く。

無線で情報が次々に入ってくる。
「現場は指令書のとおり、軽自動車の単独事故、20才代女性1名が頭部より出血、意識なし、車両に挟まれ脱出不能状態」

僕の頭は、完全に真っ白になった。
「祐子さんが亡くなった、あの事故と似ている」
衝突の衝撃で変形した車に、瀕死の状態で挟まれ車の外に出すことさえ儘ならない状況。
被害者の境遇、肉親や友人あるいは大切な男性の被害者に対する想いなどが、「あの事故」の状況と重なり合うように、まるで湧き水のように自分の意識を占領していく。

現場に到着し、救助隊や他隊も迅速かつ正確に活動を始める。
自分一人だけが、まるで早送りされた映像の中に取り残されているように、ただ立ち尽くしている。

僕は事故被害者の頭部、傷の部分をガーゼで抑えながら、ただ励ましの言葉をかける事しか出来ずに、救助活動は他の隊員によって行われ、間もなく車外に運び出された被害者は病院へと救急隊により搬送されていった。
僕は、血だらけの皮手袋を見つめながら、ただ呆然としている。

「あの事故」の時も僕のような未熟な隊員のせいで祐子さんは助からなかったのではないか。
祐子さんの「死」を認めることが出来ず、それが逃げられない現実だとわかると、その現実と向かい合うことこそが自分に残された道と信じてきた。
が、その現実と向き合うことすら出来ず、自分はどこに逃げたらいいのか。
ただ、ただ「逃げる」事しか考えられなかった。
「あの事故」から5年も過ぎようとしているのに。。。
そして、自分の無力さを棚に上げ救助隊への不信感を募らせていた。

この救助災害での僕の行動は許されることではない。
2週間の停職処分が下される事となった。

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